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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)5874号 判決 1974年5月10日

原告 水田志か

<ほか八名>

右九名訴訟代理人弁護士 三橋完太郎

同 渡部孝雄

被告 小畑恵美子

右訴訟代理人弁護士 武藤達雄

同 田中寿秋

主文

一  被告は原告らに対し、昭和四二年九月一日から別紙目録二記載の本件敷地のうち東側部分二〇・五〇平方メートルの占有を失うに至るまで、一か月金七三一円の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告らに対し、

(一) 別紙目録三記載の本件建物を収去し、同目録二記載の本件敷地を明渡せ。

(二) 昭和四二年九月一日から右明渡が終るまで一か月金二、五〇〇円の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  本件土地は、水田利三の所有であったが、同人は昭和四六年一一月二〇日死亡し、原告らがこれを相続した。

2  平田三八は、本件敷地上に本件建物を所有し、昭和四二年九月一日以前からその敷地を占有していたが、同人は昭和四六年八月一二日死亡し、被告がその相続をした。

3  本件敷地の一か月の賃料相当額は、昭和四二年九月一日ころから二、五〇〇円であるから、被告は右占有によって原告らに対して同額の損害を与えている。

よって原告らは被告に対し、本件土地の所有権にもとづき、本件建物の収去と本件敷地の明渡および占有開始の日以後である昭和四二年九月一日から明渡が終るまで一か月金二、五〇〇円の割合による損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。2のうち占有の範囲を否認し、その余の事実を認める。占有の範囲は七〇・〇八平方メートルである。

三  抗弁

1  本件敷地のうち西側部分の賃借

被告の先代平田三八は、昭和三四年ころ原告らの先代水田利三から、本件敷地のうち西側部分四九・五八平方メートル(一五坪)を建物所有の目的で賃借した。

2  本件敷地のうち東側部分につき権利濫用

原告が、本件敷地のうち東側部分の建物収去土地明渡を求めることは、権利の濫用である。すなわち、

(一) 平田三八は右西側部分に別紙目録四記載の本件旧建物を所有しており、昭和三四年ころこれを浜久幸に賃貸した。

(二) 同人は、平田三八から右建物を賃借りした後、本件敷地東側部分三三・〇五平方メートル(一〇坪)を水田利三から賃借りして、そのうえに、本件旧建物に継ぎ足す増築をした。

(三) そして浜久幸は右建物全部と本件敷地東側部分を多田達雄に転貸し、水田利三は右土地の転貸について承諾を与えた。

(四) その後多田達雄は、右建物全部を平田三八に無断で取毀し、昭和四一年一一月ころ本件敷地のうち西側部分と東側部分中二〇・五平方メートルに本件建物を建築した。

(五) このことから両者の間で本件建物の所有権について争いを生じたが、平田三八はこれを解決して本件建物を自己所有のものに確定させるとともに、同年一二月から翌四二年一月にかけて、水田利三に本件敷地東側部分の賃借を申込んだ。これに対して同人ははじめこれを承諾するようなことをいっていたが、その後三・三平方メートル当りの保証金を三〇、〇〇〇円といい出したため、両者間にこの部分の賃貸借契約は成立するに至らなかったものである。

しかしながら平田三八は、本件敷地西側部分の当時の賃料額と同額である三・三平方メートル当り七〇円の割合による金員を供託している。

(六) なお本件建物は一個の建物であるから、本件敷地東側部分の上に存する部分を、切離して収去するとしても、残余部分のみでは建物の効用を果すことができない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  抗弁2のうち、水田利三が被告主張のころその主張の本件敷地東側部分を浜久幸に賃貸したこと、および平田三八が被告主張のころ水田利三に対して同部分の賃借を申込んだことは認めるが、水田利三が浜久幸から多田達雄に対して同部分の転貸を承諾したこと、および本件建物を多田が建築したことは否認する。

なお浜久幸は、昭和四〇年一一月以降賃料を支払わなかったので、水田利三は、昭和四二年四月一八日浜に到達した内容証明郵便をもって、昭和四〇年一一月以降昭和四二年三月までの賃料の催告をするとともに、五日以内に支払わないときは契約解除する旨の意思表示をしたが、同人は支払をしなかったので、その契約は解除された。

五  再抗弁

1  平田三八は、水田利三から借受けた西側部分を越え、同人に無断で東側部分に跨る本件建物を建てた。

2  かりに多田達雄がこれを建築したものであるとしても、平田三八は建築途中多田と契約し、同人をしてこれを完成させたうえ自己の所有としたものである。

3  いずれにしても、右の行為は賃貸借の目的物の用法違反であり、または賃貸借契約における信頼関係の破壊を来すものである。

4  そこで水田利三は、昭和四二年八月一七日に到達した内容証明郵便をもって平田三八に対し、右用法違反を理由として契約解除の意思表示をした。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁2および4の事実は認めるが、1は否認する。抗弁2で述べたところからすると、用法違反による契約解除は許されない。

第三証拠≪省略≫

理由

第一本件土地の所有と本件敷地の占有について

請求原因記載のとおりの経過によって原告らが本件土地を所有し、被告が本件建物を所有していることは当事者間に争いがない。

原告らは本件敷地の面積を八二・六四平方メートルと主張し、そのうち西側部分が四九・五八平方メートルであることは争いがないが、東側部分が三三・〇六平方メートルあることについてはこれを認めるに足る証明はない。原告らが、当初本件建物の床面積を右敷地の面積と同じく八二・六四平方メートルであると主張していたのを五八・八八平方メートルと訂正したこと、しかし本件敷地の面積は終始右と同一であると主張してきたことは訴訟上明白であるから、右五八・八八平方メートルと西側部分との差額が東側部分の面積であると認定するのも相当でない。結局被告が認める範囲内の二〇・五〇平方メートルをもって、右東側部分の面積と認定せざるを得ない。

第二本件敷地の占有権原等について

一  本件敷地西側部分の賃貸借契約

平田三八が、昭和三四年ころ水田利三から本件敷地のうち西側部分四九・五八平方メートルを建物所有の目的で賃借したことは当事者間に争いがない。

二  本件敷地の利用状況等

平田三八が、昭和三四年の右西側部分借受当時その上に本件旧建物を所有しており、そのころ同建物を浜久幸に賃貸したことは原告の明らかに争わないところであり、水田利三が、その後浜久幸に対して、本件敷地のうち東側部分三三・〇五平方メートルを賃貸したこと、および平田三八が昭和四一年一二月から翌四二年一月ころ水田利三に対して、本件敷地のうち東側部分の賃借の申込をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

そして≪証拠省略≫を総合すると、平田三八から浜久幸に対する本件旧建物の賃貸借に際しては、両者の間に、同建物の売買の予約も行なわれたこと、浜は、水田利三から本件敷地のうち東側部分を賃借りする際、同人に対して、本件旧建物はいずれ自分が買い受けて登記をするつもりであり、これに建増しをしたいから右部分を貸して欲しい旨告げたこと、そして浜は水田利三から右部分を賃借りしたうえこの上に増築をして居住していたが、平田から本件旧建物を買受けるに至らないまま、数年後これと増築部分とのすべてを多田達雄に転貸したこと、この転貸借契約は不動産仲介業者の仲介によってなされたが、多田は転借後、雨もりがしたりするため昭和四一年一一月ころ右増築部分と本件旧建物を取毀し、その跡地に本件建物の建築をはじめたこと、同人はこの改築に先立ち仲介業者に地主の承諾を得てもらうよう依頼し、仲介業者が地主の承諾を得てあるというので、これを信じて工事をはじめたこと、そのころ水田利三はこれを発見し、多田に対して建築をしてはいけないと咎めたこと、平田三八もこれを制止するため同月一四日多田と工事を担当していた建築業者を相手方として建築禁止等の仮処分をしたこと、その結果同年一二月一〇日両者の間で示談が成立し、多田が平田三八所有の本件旧建物を無断で取毀した損害賠償の方法として、建築中の建物を完成して同人の所有とし、同人名義の保存登記をすることなど定めたこと、この示談は、弁護士武藤達雄が関与してなされたが、水田利三から平田三八との間の事態の解決について委任を受けていた同人の子水田利幸は、同弁護士の事務所を訪ねたりして、その内容を了知していたこと、同じころ、同弁護士の仲介で平田三八から水田利三に対して本件敷地のうち東側部分を賃借りしたい旨の申込もなされたが、同人が一坪当り三〇、〇〇〇円の保証金を要求し平田三八がこれを承諾しなかったため契約成立に至らなかったこと、および右西側部分に対する賃料はそのころまでは支払われていることが認められる。

三  本件敷地西側部分の賃貸借契約の解除

原告らは、本件敷地のうち東側部分に及んで本件建物を建築したことが、賃貸借の対象となった西側部分の用法違反かまたは信頼関係の破壊であると主張するのであるが、一般に、建物所有の目的で土地を賃借りした者が、その範囲を超えこれに隣接する賃貸人の所有地に跨がる建物を建てたとき、そのことだけで賃借地の用法違反といえるかどうか疑問である。建物所有の目的で借りた土地に建物を建てるのであれば、契約に定められた用法に違背することはないからである。これに反し借地の範囲を超えて建築することが、当事者間の一般的な信頼関係を破壊すると考えられる場合はありうることである。ただこの場合とても、そのことは信頼関係を破壊に導くと考えられる一個の徴表でしかないから、他に信頼関係を破壊しないと考えられる徴表がある場合には、その点のみを把えて契約解除の理由とすることは許されないものというべきである。

本件においてさきにみた事実からすると、水田利三と平田三八との信頼関係が破壊されるような徴表はないものと考えられる。とくに本件建物は、平田三八が自らの意思によって賃借土地の範囲を超えて建てたものではなく、多田が従来の建物(本件旧建物およびその増築建物)の改築として建てたものであり、平田三八は自己所有の旧建物に対する損害賠償の方法として本件建物の所有権を取得したものであるに過ぎない。もっとも、平田三八は多田との契約で、同人の建築中の建物を完成させることとしているから、この範囲において自己の意思の作用する領域があったといえないこともないが、これは両者の争いの解決方法として選んだものであるから、この点から信頼関係の破壊がありうるともいえない(最判昭三八・一一・一四民集一七巻一一号一三四六頁は本件と事案を異にするから、本件に妥当しない)。

結局被告の右賃貸借の抗弁は理由があり、その解除の再抗弁は認めがたい。

四  本件敷地のうち東側部分の明渡請求

右に判示したとおり前記賃貸借契約の解除が認められず、また右にみた事実関係がある以上、本件敷地のうち東側部分に存する本件建物部分の収去とその土地の明渡請求は、正当といえない。

とくに前記事実によると、右部分は水田利三が浜久幸に賃貸していたものであり、水田利三としても、平田三八との間に保証金の合意さえできれば、同人に賃貸することは可能であったものと解される。その他本件において水田利三および原告らが、本件建物の一部を切取ってまで明渡を求めるのでなければ、自己の所有権の行使が十分でないと思われるような事情は見当らない。

結局被告の権利濫用の抗弁は理由がある。

第三賃料相当損害金について

一  原告らは本件敷地に対する賃料相当損害金が一か月金二、五〇〇円であるというのであるが、そのうち西側部分については、賃貸借契約の解除が認められないこと前記のとおりであるから、これを前提としての損害金請求は認められない。

二  これに反して本件敷地のうち東側部分に対する損害金は、明渡請求が許されない場合でも請求可能である。そして本件敷地の昭和四二年九月一日以降の一か月の賃料相当額が二、五〇〇円であることについては被告の明らかに争わないところであり、そのうち東側部分の面積が二〇・五〇平方メートルであることはさきに認定したところであって、全部の七〇・〇八平方メートルとの按分額が七三一円であることは計数上明らかであるから、原告らの損害金の請求はこの範囲で理由があるということになる。なおこの損害金は被告の右部分に対する占有の続く限り請求できるものであり、その請求は原告らの本訴請求の範囲内であると解してよいから、被告がその占有を失うまでの限度内で認容することとする(原告らと被告との間で賃貸借契約が成立したとき、それによって請求できることはいうをまたない)。

第四結語

以上みてきたとおりであるから、原告の本訴請求は、このうち前記東側部分に対する損害金の支払を求める限度においてこれを認容することとし、その余は失当として棄却する。

よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 飯原一乗)

<以下省略>

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